PPIは日中・H2ブロッカーは夜間に優位なのはなぜ?特徴・弱点を比較【プロトンポンプ阻害薬、H2受容体遮断薬】

くくたる@薬剤師
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こんにちは!

くくたる(twitterはコチラ)です!

【薬剤師歴11年目】
●フリーランス薬剤師
●管理薬剤師歴:調剤3年、OTC1年目
●1人薬剤師歴(調剤):2年

【その他資格】
国際中医師
●ハーバルセラピスト
●シニアハーバルセラピスト
※国際中医師は医師免許ではありません。

 

①PPIはH2ブロッカーに比べて酸分泌を抑える効果が高い

PPIは日中、H2ブロッカーは夜間の酸分泌の抑制に適している

③PPIは効果が1日持続する

 

1つ1つは聞いたことがあると思います!

 

しかし「PPIはH2ブロッカーに比べて酸分泌を抑える効果が高くて1日持続するのに、夜間はH2ブロッカーの方が効果があるの?」

と疑問に思ったことはないでしょうか?

 

というわけで今回は、インタビューフォームなどいくつかの文献を参考にしてこの疑問を解消していきたいと思います!

 

●序盤:基礎知識とNAB(Nocturnal Gastric Acid Breakthrough)

●中盤:各薬剤のインタビューフォームから読み取る

●終盤:PPIとH2ブロッカーの併用に対する解釈・疑義紹介の必要性はあるか?

 

くくたる@薬剤師
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このような流れで紹介します!

 

PPIとH2ブロッカーはどちらが酸分泌を抑える効果が強い?

胃酸分泌を抑える効果が強いのはPPIです!

 

PPIとH2ブロッカーの作用機序

胃壁細胞のイメージ図です!

 

●PPIは胃酸が出る最終の出入口を抑える

●H2ブロッカーはH2受容体を遮断する!

※胃酸分泌は3つの受容体の中ではH2受容体の関与が一番高いと考えられている

 

そのため、胃酸の分泌を抑える能力はPPIの方が高いと考えられております!

 

また、ボノプラザンを除く既存のPPIはプロトンポンプを不可逆的に阻害し、プロトンポンプは約3日で再生されると考えられているため、作用が強い理由の1つと考えられます!

 

H2ブロッカーは既存のPPIに比べて速効性がある点が勝っておりますが、継続して服用することにより耐性ができる点を考慮しなくてはいけません!

※約1~2週間の継続で効果が減弱すると考えらえれています。

 

ではなぜ「日中はPPI」「夜間はH2ブロッカー」と考えられているのでしょうか?

日中はPPI、夜間はH2ブロッカーと考えられている理由

PPI(プロトンポンプ阻害薬)の特徴

PPIは食事により活性化されたプロトンポンプを阻害するため、日中の服用が適している!

※食事によりすべてのプロトンポンプが活性化するわけではない

 

H2ブロッカー(H2受容体遮断薬)の特徴

H2ブロッカーは夜間の基礎酸分泌に対して有効で即効性があるため、夜間の服用が適している!

 

くくたる@薬剤師
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個人的には、服用タイミングで日中が優位か、夜間が優位かを考えた方が整理しやすいと思います!

NAB(nocturnal gastric acid breakthrough)とは?

直訳すると夜間胃酸過多です!

詳しくは下記引用分を参考にしていただけると助かります!

Nocturnal Gastric Acid Breakthrough(NAB)は,プロトンポンプインヒビター(PPI)投与中の夜間に胃内pHが4.0以下に1時間以上にわたって低下するような現象をいう.この現象は,PPIの酸分泌抑制効果が夜間に減弱するために起こるのではなく,日中はPPIで1/10となった分泌胃酸を食物が中和しているが,夜間は胃内が空虚であり,少量の胃酸が存在していても胃内pHが低下しやすいために出現すると考えられる.

臨床医学出版/日本メディカルセンター 臨牀消化器内科 Vol.17 No.2(6)

 

くくたる@薬剤師
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要約すると、

①PPI自体の効果が弱くなるわけではない

②日中は食事で胃酸が中和されることも含めpHが上がる

③夜間は胃が空でpHが下がる

 

①~③より、PPI投与中でも夜間の胃内pHの低下が起こりコントロール不良となる状況があるという感じです!

 

このように、PPI服用中でも夜間のpHコントロールがうまくいかない場合もあるわけですね!

 

24時間食道pHモニタリング

胃食道逆流症(GERD)における食道のpHの検査方法です!

詳しい検査方法は省きますが、下部食道括約筋の5cmのpHを24時間記録(症状、食事、睡眠時間も記録)することで、pHが4.0未満の時間比を求める検査方法です!

 

pH4.0未満の時間比

●PPIを服用していない場合は4.3%を超えた場合

●PPIを服用している場合は1.3%を超えた場合

に異常な酸逆流と判定します!

 

NABでは胃内pHが4.0以下と定義されており、24時間食道pHモニタリングでは食道のpH4未満と定義されておりますね!

また、いくつかのPPIのインタビューフォームではpH4.0以上を示す時間の割合についての記載があります!

 

そこで「なぜpH4.0が境界線となっているのか?」の理由について考察したいと思います!

pH4.0が境界線となる理由

pH4.0以上でペプシンの消化力が弱まる(失活する)ためと考えられます!

 

 

それでは、各種インタビューフォームのグラフを見ていきたいと思います!

オメプラール(オメプラゾール)のインタビューフォーム

オメプラゾールは夜に1回、ファモチジンは朝夜の2回で服用した場合の24時間の胃酸分泌についてのグラフです!

※対象は胃潰瘍・十二指腸潰瘍・健康成人

 

グラフを見ると、1:00~7:00の間はファモチジン投与の方がpHが高い状態で維持できていると考えられそうですね!

※どちらもpH4以上

※単回投与時なのか、継続投与時なのかの記載がありません。

ネキシウム(エソメプラゾール)のインタビューフォーム

エソメプラゾールの場合は、オメプラゾールとの24時間中に胃内pHが4以上を示す時間の割合で比較がされております!

※対象は健康成人男性

 

夜間のpH変動についてはこの情報からはわかりませんが、エソメプラゾールはオメプラゾールのS体であることを考えると、オメプラゾール同様に夜間のpHは4以上を維持できるのではないかと考えられます!

パリエット(ラベプラゾール)のインタビューフォーム

上図はpH3未満、下図はpH4未満の状態の時間の総和ですね!

※対象は胃潰瘍

 

他のPPIと条件を合わせるためpH4未満の割合(下図の条件)で考えてみます!

抑制率はラベプラゾール10mgでは90.8%、20mgでは97.1%のため、少なくとも9割以上の時間をpH4以上で保てていると考えられます!

※日中・夜間などの時間帯については不明

タケプロン(ランソプラゾール)のインタビューフォーム

上図は8時、下図は20時に服用をした場合の胃酸分泌についてのグラフです!

※対象は十二指腸潰瘍

 

●朝服用の場合は、2:00~8:00の間にpHが3~4付近まで下がる時間帯がありますが、全体としてはpH4以上を維持できていそうですね!

●夜服用の場合は、2:00~8:00の間はpHが高い状態で維持できていますが、全体としては朝服用の場合よりもpHが低い傾向にありそうですね!

 

PPIは食事により活性化されたプロトンポンプを阻害するためこのような差が出るのではないかと私は考えます!

タケキャブ(ボノプラザン)のインタビューフォーム

※横軸は経過時間である点に注意

7日目のボノプラザン20mgではpH4以上の時間の割合は83.37±16.666%で、ラベプラゾールやランソプラゾール(朝服用)と同様に、かなりの時間がpH4以上で保てていると考えられます!

インタビューフォームまとめ

ファモチジンはオメプラゾールよりも夜間の胃酸分泌抑制効果が高い!

※どちらもpH4以上

※ファモチジンの耐性の有無は不明

 

pH4以上で維持する時間の割合で比較

ボノプラザン・ラベプラゾール・ランソプラゾール > エソメプラゾール・オメプラゾール

 

PPIとH2ブロッカーの併用は?

社会保険診療報酬支払基金

最終更新日は2021年8月31日の情報です!

 PPI抵抗性の難治性逆流性食道炎については、PPIの弱点である夜間の効果減弱すなわちnocturnal gastric acid breakthrough(NAB)に対して、速効性のあるH2ブロッカー投与が効果的であるとの報告はあるが、その効果は1週間程度で長期投与では効果が減弱するとの報告もあり、併用による効果について一定の見解は得られていない。PPI抵抗性の難治性逆流性食道炎に対しては、まずPPIの倍量あるいは1日2回投与が強く推奨されている。(胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン2015)
 さらに、2015年2月に薬価収載された新しい作用機序を持ったPPI、ボノプラザン(タケキャブ)は胃酸で失活しない、速効性のPPIである。この新規PPIの登場により、今後、PPI抵抗性の難治性逆流性食道炎の治療方針が変更される可能性が高いと思われる。
 したがって、H2ブロッカー(ガスター錠等)とプロトンポンプ・インヒビター(オメプラール錠等)の併用投与は、原則認められないと判断した。

7 投薬|社会保険診療報酬支払基金

 

m3.com臨床ダイジェスト

掲載日は2021年9月9日です!

 PPIは夜間の酸分泌抑制が弱いことが元々分かっています。酸分泌をしっかり抑えたい場合には、PPIを朝と晩とに2分割します。2分割投薬すると24時間にわたって多くの人で胃酸分泌を抑えることができます。

 ただし一部の方では、nocturnal gastric acid breakthrough(NAB。夜間胃酸急増)といって、2分割投薬しているにもかかわらず、夜間の酸分泌抑制を十分にできない場合があります。そういう方の場合にH2ブロッカーを夜、寝る前に追加投薬すると、夜間の酸分泌抑制を獲得することができます。しかし、これもH2ブロッカーの耐性現象が起こるので、2週間したらその効果は小さくなることに注意が必要です。

PPIとH2ブロッカーはどう使い分けるべきか【時流◆PPIの適切な使い方】 | 臨床ニュース | m3.com

 

夜間の酸分泌抑制が弱い(NAB)に対して、PPIにH2ブロッカーを併用する場合があるという知識は必要です!

 

しかし、社会保険診療報酬支払基金の見解では併用は原則認められないと判断されているため、疑義照会なしで調剤をしてしまうと返還の恐れがあるため、調剤薬局の立場からすると疑義紹介は必要と考えられますね!

参考文献

インターネット

外来pHモニタリング – 01. 消化管疾患 – MSDマニュアル プロフェッショナル版

日本消化器外科学会教育集会(GERD最近の治療)※PDF直リンク

臨床医学出版/日本メディカルセンター 臨牀消化器内科 Vol.17 No.2(6)

投薬|社会保険診療報酬支払基金

PPIとH2ブロッカーはどう使い分けるべきか【時流◆PPIの適切な使い方】 | 臨床ニュース | m3.com

 

書籍

 

 

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メディック メディア

最後に

というわけで、今回はPPIが日中・H2ブロッカーが夜間優位と考えられている理由について紹介しました!

 

 

くくたる@薬剤師
くくたる@薬剤師

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